場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階講義室
日時:2024年2月20日(火曜日)15:00〜
演者:都築洋一(国立環境研究所 環境リスク・健康領域リスク管理戦略研究室 特別研究員)
演題:孤立した多年生植物集団において遺伝的多様性が維持されるのはなぜか
生息地の分断化は野生生物の存続を脅かす危機要因の一つである。北海道十勝地方では、明治時代から続く農地開発によって森林が大きく分断されてきた。私は、それらの孤立林に生息する多年生の草本植物オオバナノエンレイソウTrillium camschatcenseを対象に、生息地の分断化が植物集団の遺伝的多様性に及ぼす影響を調べてきた。オオバナノエンレイソウは、発芽したばかりの実生、栄養成長途中の幼植物、繁殖をおこなう開花段階など、様々な生活史段階の個体で集団が構成されている。生活史段階ごとに遺伝的多様性を評価するとともに、個体群行列モデルを使った数理解析をおこなうことで、どの生活史段階が集団全体の遺伝的多様性を維持するうえで重要なのかを調べた。その結果、開花に至るまでに個体が長い年月をかけてゆっくりと成長するという生活史戦略を持つことで、幼植物段階で様々な年齢の個体が累積して、遺伝的多様性が維持されていることがわかった。また多年生植物一般を対象にした数理モデリングによって、緩徐な成長は多年生植物で広く遺伝的多様性の維持に寄与することもわかってきた。発表では現在取り組み始めている研究内容もご紹介しつつ、生活史戦略に着目した遺伝的多様性評価の意義について議論したい。