場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階講義室
日時:2025年1月21日(火)14:50〜16:20
演者:瀨戸美文(高知大学大学院 総合人間自然科学研究科 黒潮圏総合科学専攻3年)
演題:着生植物、草原生植物、ニホンジカの採食で衰退した林床草本植生
1.維管束着生植物の分布・種多様性はどのように規定されているのか?
着生植物は、樹木の幹や枝に固着して生育する特殊な植物で、地球上の維管束植物の約10%を占めるほど種多様性が高く、森林の生物多様性を左右する存在です。着生植物の分布・種多様性が、どのような要因によって、どのように規定されているのかを明らかにすることは、森林の生物多様性が成立・維持されるメカニズムを理解するうえで重要です。講演では、高知県の天然林において着生植物の分布と樹木や地形との関係を検討した研究と、日本全土を対象に着生植物の種多様性と気候環境との関係を検討した研究を紹介します。
2.高知市皿ヶ峰で生育地を失いつつある草原生植物に共通する生態的特性はあるのか?
かつて日本には多くの半自然草地(人間活動に伴う刈り取りや火入れなどの攪乱によって維持されてきた草地)がありましたが、過去数十年間での管理放棄や人工林への転換により、その面積は激減しました。それに伴い、半自然草地の環境に依存して個体群を維持する草原生植物の生育地も消失・縮小しています。半自然草地の管理放棄により個体数が減少しやすい草原生植物に共通する特徴(生態的特性)を明らかにできれば、優先的に保全すべき種の特定が可能となり、より有効な草原生植物の保全策の検討に繋がります。講演では、高知市皿ヶ峰に残存する半自然草地において、個体数がより早く減少する草原生植物に共通する生態的特性を明らかにした研究を紹介します。
3.ニホンジカの長期採食によって衰退した草本植生の回復促進に、植生移設は有効か?
ニホンジカの過剰な採食による植生の衰退が、全国各地で深刻な問題となっています。食害が軽微な段階で防鹿柵が設置された場合、食害を受ける前の植生が防鹿柵内で回復することもありますが、長期間にわたる食害を受け衰退した植生は、防鹿柵を設置しても回復は難しいことが知られています。食害が軽微な段階で設置された防鹿柵内で植生が回復・生残している場合、その植生の表土や植生ブロックを、長期間にわたる食害により植生が衰退した場所に移設することで、植生回復を促進できる可能性があります。講演では、剣山系三嶺さおりが原において、鹿の長期採食により衰退した林床の草本植生の回復に、植生ブロックや表土の移設が有効であるのかを検討した研究を紹介します。