2024/06/06

蛾の色彩の進化/科学コミュニケーション

東京都立大学の矢崎さんに、下記2つのテーマについて発表していただきます。

演者:矢崎 英盛 博士(東京都立大学 理学部 生命科学科 特任助教) 
場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階講義室 
日にち:2024年6月18日(火)13:10〜16:20(3〜4限)

前半(13:10〜14:40)
蛾の翅の色彩進化を探る〜行動生態学からのアプローチ〜

 鱗翅目(チョウ目)の翅色彩の豊かさは、ダーウィンやウォレスの時代から多くの研究者・愛好家を魅了し、進化学・生態学の研究の格好の題材となってきた。一方でその研究の中心は昼行性の蝶類にあり、夜行性種の多い蛾類の色彩の進化については、蝶類よりもはるかに多くの種数を持つにも関わらず、必ずしも解明されているとは言えない。
 そんな蛾類の翅色彩の進化プロセスの研究にあたって演者は主に、同種の雌雄間で著しく翅色彩や形状が異なる「性的二型」、そして異なる種と翅色彩が類似する「擬態」という2つの現象に注目してきた。中でもシロオビドクガ Numenes albofascia (トモエガ科ドクガ亜科)は、雌雄でその翅色彩が著しく異なる上、オスはホタルガ(マダラガ科)、メスはヒトリガ(トモエガ科ヒトリガ亜科)に斑紋が酷似しており、「性的二型」と「擬態」の2つの特徴を併せ持つ可能性がある。今回のセミナーでは、シロオビドクガを含むドクガ亜科でなぜこのような特殊な進化が起きたのかについて検証した行動実験を中心に、蛾の翅色彩の進化とその研究手法について議論したい。
後半(14:50〜16:20)
なぜネイチャーガイドなのか〜「生態学」を伝える科学コミュニケーション〜

 自然科学への関心の裾野を広げることは、社会における科学への様々な誤解や疑似科学的言説の氾濫への対策としても不可欠である。その基盤としての自然の「原体験」の重要性は多く指摘されてきた一方、未成年者の自然体験の頻度は下降している現状がある。
 演者は蛾類の生態学的研究と並行して、主に都会に住む親子を対象とした「ネイチャーガイド」の経験を積み、身近に生物の魅力を初めて体感するための格好の対象である昆虫を中心に、自然への「原体験」を生物の観察を通じて醸成しようとする試みを続けてきた。現在はそうしたガイドとしての技術・スキルを、研究者としての知見と組み合わせ、自然科学の魅力やその意義を効果的に伝える「科学コミュニケーション」の実践にも取り組んでいる。今回のセミナーではこうした活動にどんな意義と展望があるのか、中高生向けの生態学の入門講座を中心とした実践事例を紹介しながら議論したい。