2020年最初のセミナーとなります。皆様のご参加をお待ちしております。
日時:2020年1月30日(木)16:30-18:00
場所:高知大学 物部キャンパス4-1-13教室
講師:河上康子 博士(大阪市立自然史博物館外来研究員)
演題:ダンダラテントウ鞘翅斑紋多型の地理的・経時的変動とその維持機構
テントウムシ類にはひとつの種で多くの模様,すなわち斑紋型多型をもつ種がある.斑紋型多型は表現型形質であり,種内変異のひとつである.このような形質の種内変異は,野外での環境変動や分布拡大に対応する適応進化の原動力であるが,なぜこのような斑紋型多型が存在し維持されているのか,詳細には解明されていない.
本研究では斑紋型多型をもつダンダラテントウCheilomenes sexmaculatusを研究材料として,標本調査と野外調査から斑紋型頻度の地理的変異のなりたちと経時的変動を検討した.本種は赤道付近から日本の本州中部まで生息する広域分布種である.はじめに斑紋型頻度の地理的変異を1549個体の標本調査に基づいて精査した.次に斑紋型の環境応答の観点から,斑紋型頻度の地理的変異のなりたちについて検討するために,分布域の拡大が気候要因と関係があるかどうかを調べた.さらに,本種の分布拡大の過程にともなう形質の変化を斑紋型頻度と体サイズに着目して調査した.その結果,本種は高緯度ほど黒い型の斑紋型が多く,低緯度ほど赤い型が多い明瞭なクラインを示すことがわかった.また1910年代から1990年代にかけて日本の北緯33度から36度に分布域を北上していた.この分布北上は過去100年の年平均気温15℃の等温線の北上とよく一致し,気候温暖化が分布拡大の要因のひとつである可能性が示された.さらにこの分布北上にともない成虫の体サイズは小さくなり,黒い型の頻度が増加していた.すなわち黒く小さな個体が,日照時間のより少ない高緯度への分布拡大に際して有利であったことが推察された.
次に,本種の斑紋型頻度の地理的変異がクラインをしめす要因のひとつをさぐるために,大阪個体群の斑紋型頻度の世代変異を9年間にわたり野外調査した.その結果,秋世代成虫が越冬した後の越冬世代には黒い型が増加するが,次の春世代には赤い型が増加することを毎年繰り返し,通年の斑紋型頻度が保たれている平衡頻度であることがわかった.越冬には日射を有効に利用できる黒い型が有利であるために赤い型は減少するが,生き残った赤い型の雌は体サイズ平均が黒い型よりも大きいために,有利に配偶する傾向があり,産下した卵は高い孵化率を示した.このことが,越冬により減少した赤い型が,次の春世代で割合を回復する要因のひとつと考えられた.越冬には不利である赤い型が有利となるような,世代ごとに方向の異なる選択がはたらくことにより,本種大阪個体群の斑紋型頻度が維持されている可能性が示された.
撮影・野村周平(科博)