場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階講義室
日時:2024年11月25日(月)13:10〜14:50
演者:萩野 恭子 博士(高知大学 海洋コア国際研究所 客員講師)
演題: 円石藻Braarudosphaera bigelowiiとニトロプラストの研究小史
円石藻(海生の単細胞微細藻)の一種であるBraarudosphaera bigelowiiは、窒素固定細菌UCYN-Aを細胞内に共生藻として持つことが、以前から知られていた。しかし、B. bigelowii の培養株が確立されて詳細な解析が行われた結果、UCYN-Aは共生藻というよりオルガネラと呼ぶ方が相応しい状態であることが分かり、窒素固定オルガネラ『ニトロプラスト』という名称が提唱された(Coale et al. 2024 Science)。一次共生由来のオルガネラとしては、約20億年前に真核生物の共通祖先に取り込まれた好気性細菌に由来するミトコンドリア、約15億年前に藻類・植物の共通祖先に取り込まれたシアノバクテリアに起源をもつ葉緑体、約1.2億年前に有殻アメーバPaulinella chromatophoraに取り込まれたシアノバクテリア由来の葉緑体に続いて、今回のB. bigelowiiのニトロプラストが4例目である。そして、窒素を固定するオルガネラを持つ真核生物としては、このB. bigelowiiが初めての報告である。
Braarudosphaera bigelowiiは白亜紀後期まで遡る長い化石記録をもつ、古生物学的に非常に興味深い種である。私はもともと地球科学(微古生物学)が専門であり、円石藻化石の多様性と古海洋環境の関係を理解するために、現生円石藻の生物地理や形態多様性の研究、そして、現生種の培養や分子系統解析に取り組んで来た。B. bigelowiiはその研究対象の一つである。一方のB. bigelowiiのニトロプラスト(UCYN-A)の研究は、B. bigelowii研究とは全く別に、主に海洋環境科学や窒素固定細菌の研究者によって行われて来た。複数の分野で同時並行で研究が進められてきたため、直接研究に携わっていない人にとっては、B. bigelowiiとニトロプラスト研究の全容の把握は難しいのではないかと思われる。
本発表ではB. bigelowiiとニトロプラスト研究の包括的な理解を促進するため、円石藻研究(=背景)について簡単に説明した上で、これまでにB. bigelowiiとニトロプラスト研究が辿ってきた道のりを紹介する。そして、B. bigelowiiとニトロプラストの研究に残されている課題についても紹介する。