2024/10/24

気候変動対策

場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階講義室
日時:2024年11月6日(水)14:50〜16:20
演者:原 政之(高知大学 教育研究部 自然科学系 農学部門 准教授)
演題: 気候変動対策とその検証 − 農林業・生態系に関わりのあることを中心に

 2021年8月に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第1作業部会第6次報告書が公表され、早ければ2030年代前半には全球平均気温が産業革命以前と比べて1.5℃上昇するとの予測がされている。全球平均気温の上昇による影響は既に顕在化しており、農林業や生態系に関しても例外ではない。
 気候変動対策は、温室効果ガス排出量を減らすための対策(緩和策)と、気候変動による悪影響を受けないための対策(適応策)の2つに大別できる。日本では、従来、緩和策中心で対策が進められてきた。2018年の気候変動適応法施行前後から気候変動適応策に関する取り組みが急速に広まり、その後、さまざまなセクターにおいて緩和・適応のどちらも重要であるという考え方が浸透してきている。
 演者は、これまで国や地方自治体の研究機関において、地域スケールの気候変動予測や、科学的根拠に基づく気候変動緩和・適応の施策立案・実装・評価に関する研究を行ってきた。セミナーでは、特に、生態系、農林業、社会活動に関わる気候変動とその対策についての実例を複数紹介し、その意義について議論したい。
 以下は、演者が関わった事例の一部である(リンク先は、国立環境研究所 気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT))。 




2024/08/30

着生ランの菌根共生

場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階講義室

日時:2024年9月11日(水曜日)14:50〜

演者:蘭光健人(東京大学・新領域創成科学研究科)
演題:ラン科着生植物の菌根共生

植物が根で真菌類(以下、菌根菌)と養水分の授受を行う菌根共生は、陸上植物の約9割が持つ地球上で最も普遍的な共生系の一つである。林冠に生育する着生植物にとって、樹上の強い乾燥や栄養ストレスの緩和に貢献する菌根共生は、樹上環境への適応や種多様化に寄与した可能性が高い。約28000種からなる維管束着生植物の67%を占めるラン科着生植物(以下、着生ラン)は樹上で最も種多様化した植物群である。また、ラン科は菌根菌への栄養依存度が極めて高い特殊な生態をもつことから、樹上環境への適応や種多様化に菌根菌が果たした役割は特に大きいと考えられる。しかし、着生ランの菌根共生に関する知見は極めて限られ、着生ランがどの様な菌と共生しているのかさえ情報が断片的であった。
演者はこれまで日本在来種を対象に、世界に先駆けて着生ランの菌根菌相を調査してきた。講演では日本に最も広く分布する着生ラン、クモラン、カヤラン、ヨウラクランをモデルにした菌根共生系の比較研究を主に紹介し、樹上における菌根共生系の多様性とその適応的意義について議論したい。





2024/06/06

蛾の色彩の進化/科学コミュニケーション

東京都立大学の矢崎さんに、下記2つのテーマについて発表していただきます。

演者:矢崎 英盛 博士(東京都立大学 理学部 生命科学科 特任助教) 
場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階講義室 
日にち:2024年6月18日(火)13:10〜16:20(3〜4限)

前半(13:10〜14:40)
蛾の翅の色彩進化を探る〜行動生態学からのアプローチ〜

 鱗翅目(チョウ目)の翅色彩の豊かさは、ダーウィンやウォレスの時代から多くの研究者・愛好家を魅了し、進化学・生態学の研究の格好の題材となってきた。一方でその研究の中心は昼行性の蝶類にあり、夜行性種の多い蛾類の色彩の進化については、蝶類よりもはるかに多くの種数を持つにも関わらず、必ずしも解明されているとは言えない。
 そんな蛾類の翅色彩の進化プロセスの研究にあたって演者は主に、同種の雌雄間で著しく翅色彩や形状が異なる「性的二型」、そして異なる種と翅色彩が類似する「擬態」という2つの現象に注目してきた。中でもシロオビドクガ Numenes albofascia (トモエガ科ドクガ亜科)は、雌雄でその翅色彩が著しく異なる上、オスはホタルガ(マダラガ科)、メスはヒトリガ(トモエガ科ヒトリガ亜科)に斑紋が酷似しており、「性的二型」と「擬態」の2つの特徴を併せ持つ可能性がある。今回のセミナーでは、シロオビドクガを含むドクガ亜科でなぜこのような特殊な進化が起きたのかについて検証した行動実験を中心に、蛾の翅色彩の進化とその研究手法について議論したい。
後半(14:50〜16:20)
なぜネイチャーガイドなのか〜「生態学」を伝える科学コミュニケーション〜

 自然科学への関心の裾野を広げることは、社会における科学への様々な誤解や疑似科学的言説の氾濫への対策としても不可欠である。その基盤としての自然の「原体験」の重要性は多く指摘されてきた一方、未成年者の自然体験の頻度は下降している現状がある。
 演者は蛾類の生態学的研究と並行して、主に都会に住む親子を対象とした「ネイチャーガイド」の経験を積み、身近に生物の魅力を初めて体感するための格好の対象である昆虫を中心に、自然への「原体験」を生物の観察を通じて醸成しようとする試みを続けてきた。現在はそうしたガイドとしての技術・スキルを、研究者としての知見と組み合わせ、自然科学の魅力やその意義を効果的に伝える「科学コミュニケーション」の実践にも取り組んでいる。今回のセミナーではこうした活動にどんな意義と展望があるのか、中高生向けの生態学の入門講座を中心とした実践事例を紹介しながら議論したい。

2024/02/10

アリの採餌行動(藤岡さん) & ツユクサの繁殖干渉(勝原さん)

今回は岡山大学のお二人にセミナーしてもらいます。


場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階講義室

日時:2024年2月27日(火曜日)13:10〜16:20


プログラム

2月27日(火曜日)

13:10〜14:40 
藤岡春菜(岡山大学)「トゲオオハリアリの液状餌の採餌行動は、粘度によって変化する」

14:50〜16:20 
勝原光希(岡山大学)「繁殖干渉下の在来近縁植物2品種の共存機構:ツユクサ・ケツユクサ系を用いて」

要旨


藤岡さん


タイトル:トゲオオハリアリの液状餌の採餌行動は、粘度によって変化する



 アリやハチなどの社会性昆虫は、巣内の一部の個体だけが、巣外で採餌活動を行う。採餌個体は、自らのために採餌をするだけでなく、巣仲間のために餌を巣に持ち帰る必要がある。そのため、採餌戦略を考える上で、餌の選択や探索だけでなく、餌の輸送が重要となる。アリ類は、輸送が難しいと考えられる花蜜や甘露など液体の餌もエネルギー源として利用する。興味深いことに、アリは、液状餌を飲んで胃に貯めて持ち帰る方法と、大顎で液体をつかんで運ぶ方法(バケット行動)の2つの輸送方法を用いる。採取スピード、量、確実性など、それぞれに利点・欠点があると予想されるが、餌や環境に応じた各手法の効率性はほとんどわかっていない。

 本研究では、2つの輸送方法を併用するトゲオオハリアリを用いて、餌の質(糖度と粘度)によって輸送方法が使い分けられているのかを調べた。その結果、糖度や粘度が高い餌で、バケット行動がよく使われていた。これは、飲むのに時間がかかる餌の場合、アリは短い時間で餌を持てるバケット行動を利用したと考えられる。講演では、この行動選択の効率性についても議論したい。



勝原さん


タイトル:繁殖干渉下の在来近縁植物2品種の共存機構:ツユクサ・ケツユクサ系を用いて


 生物の多種共存機構の解明は生態学における中心的議題の一つであり、古典的には、 “種間でニッチを共有しないこと”が重要であると考えられてきた。顕花植物においては、2種が送粉ニッチ(いつ・どこで・だれに花粉が運ばれるか)を共有する場合、送粉者によって運ばれた異種花粉が柱頭に付着することが、花粉管の干渉や胚珠の天引きといった繁殖干渉を引き起こす。このような繁殖干渉は、形質置換によるニッチ分割や、競争排除を強く促進するため、送粉ニッチを共有する植物の共存は困難であると考えられてきた。

 発表者は、送粉ニッチを共有しているにも関わらず野外で同所的に共存している在来一年生草本ツユクサとケツユクサを用いて、「先行自家受粉(花が開く前に蕾内でおしべとめしべが接触する受粉)が繁殖干渉の悪影響を軽減する」可能性について研究を行ってきた。さらに、「先行自家受粉の進化が繁殖干渉下の共存を可能にする」という仮説について、個体ベースモデルを用いた研究も行っている。本セミナーでは、これらの一連の研究を紹介し、ニッチを共有する植物の新たな共存メカニズムについて議論したい。






2024/01/31

多年生植物の遺伝的多様性

場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階講義室

日時:2024年2月20日(火曜日)15:00〜

演者:都築洋一(国立環境研究所 環境リスク・健康領域リスク管理戦略研究室 特別研究員
演題:孤立した多年生植物集団において遺伝的多様性が維持されるのはなぜか


生息地の分断化は野生生物の存続を脅かす危機要因の一つである。北海道十勝地方では、明治時代から続く農地開発によって森林が大きく分断されてきた。私は、それらの孤立林に生息する多年生の草本植物オオバナノエンレイソウTrillium camschatcenseを対象に、生息地の分断化が植物集団の遺伝的多様性に及ぼす影響を調べてきた。オオバナノエンレイソウは、発芽したばかりの実生、栄養成長途中の幼植物、繁殖をおこなう開花段階など、様々な生活史段階の個体で集団が構成されている。生活史段階ごとに遺伝的多様性を評価するとともに、個体群行列モデルを使った数理解析をおこなうことで、どの生活史段階が集団全体の遺伝的多様性を維持するうえで重要なのかを調べた。その結果、開花に至るまでに個体が長い年月をかけてゆっくりと成長するという生活史戦略を持つことで、幼植物段階で様々な年齢の個体が累積して、遺伝的多様性が維持されていることがわかった。また多年生植物一般を対象にした数理モデリングによって、緩徐な成長は多年生植物で広く遺伝的多様性の維持に寄与することもわかってきた。発表では現在取り組み始めている研究内容もご紹介しつつ、生活史戦略に着目した遺伝的多様性評価の意義について議論したい。





2024/01/09

タンポポの性的対立

場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階講義室

日時:2024年1月10日(水)15:00〜
演者:京極 大助 博士(兵庫県立人と自然の博物館)
演題:植物に受精前の性的対立はあるか?

受粉した花は、受粉しなかった花よりも、早く枯れたり閉じたりする。この現象は役割を終えた器官を放棄する適応だと解釈されることが多い。しかし、早期の閉花が種子親に花粉制限をもたらすと考えられるいっぽう、花粉親から見れば閉花は花粉管競争のリスクを軽減するなどの点で適応的だと考えられる。すなわち、花の枯死や閉花のタイミングをめぐって種子親と花粉親の間に利害対立(性的対立)があるかもしれない。2倍体の有性生殖種であるカンサイタンポポを用いて、この仮説の検証を私は共同研究者とともに進めてきた。カンサイタンポポの花(花序)は受粉によって閉花が誘導される。集団間での交配実験により、閉花の速度に花粉親の形質が影響していることが明らかとなった。また一連の実験により、早期の閉花が種子親と花粉親の適応度に与える影響についても明らかとなりつつある。セミナーでは仮説の理論的背景を説明するとともに、現在までに得られている結果を紹介する。また今後の研究の展望についても議論する。



2023/12/04

ツル植物のマクロ生態学

場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階講義室
日時:2023年12月20日(水)15:00〜
演者:日下部玄(東京大学 農学部 博士後期課程)
演題:日本列島における木本性つる植物の分布パタンとその登り方間差

木本性つる植物(以下:つる植物)は自重の支持を他に依存する樹木と定義され,細い幹と幹の太さに対し不釣り合いに大きな葉量に特徴づけられます。森林の群集以上のスケールを対象としたつる植物の研究は熱帯を中心にこの30年ほどで飛躍的に増加し,つる植物が宿主となる立木によじ登り樹冠を覆うことで宿主の成長や生存に負に作用し,森林の炭素蓄積量を低下させるといった機能が示されています。また,林業分野では材を変形,劣化させる要素として排除の対象として扱われています。一方で,種や個体レベルでは,つる植物が登り先を探したり,多様な特殊化した仕組みを用いてよじ登ったりする様子のユニークさは古くから学者達の興味を引いてきました。しかし,このつる植物内の多様さはつる植物の分布や森林に与える影響に関する研究では見逃されがちです。
演者は温帯を中心に広い環境条件の勾配を示す日本列島で,つる植物の登り方の違いに着目して,その分布パタンと,主に木部構造の視点から,そのメカニズムを調べてきました。セミナーではこれまでの研究を紹介し,つる植物群集の生態的機能について議論したいと思います。