2024/02/10

アリの採餌行動(藤岡さん) & ツユクサの繁殖干渉(勝原さん)

今回は岡山大学のお二人にセミナーしてもらいます。


場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階講義室

日時:2024年2月27日(火曜日)13:10〜16:20


プログラム

2月27日(火曜日)

13:10〜14:40 
藤岡春菜(岡山大学)「トゲオオハリアリの液状餌の採餌行動は、粘度によって変化する」

14:50〜16:20 
勝原光希(岡山大学)「繁殖干渉下の在来近縁植物2品種の共存機構:ツユクサ・ケツユクサ系を用いて」

要旨


藤岡さん


タイトル:トゲオオハリアリの液状餌の採餌行動は、粘度によって変化する



 アリやハチなどの社会性昆虫は、巣内の一部の個体だけが、巣外で採餌活動を行う。採餌個体は、自らのために採餌をするだけでなく、巣仲間のために餌を巣に持ち帰る必要がある。そのため、採餌戦略を考える上で、餌の選択や探索だけでなく、餌の輸送が重要となる。アリ類は、輸送が難しいと考えられる花蜜や甘露など液体の餌もエネルギー源として利用する。興味深いことに、アリは、液状餌を飲んで胃に貯めて持ち帰る方法と、大顎で液体をつかんで運ぶ方法(バケット行動)の2つの輸送方法を用いる。採取スピード、量、確実性など、それぞれに利点・欠点があると予想されるが、餌や環境に応じた各手法の効率性はほとんどわかっていない。

 本研究では、2つの輸送方法を併用するトゲオオハリアリを用いて、餌の質(糖度と粘度)によって輸送方法が使い分けられているのかを調べた。その結果、糖度や粘度が高い餌で、バケット行動がよく使われていた。これは、飲むのに時間がかかる餌の場合、アリは短い時間で餌を持てるバケット行動を利用したと考えられる。講演では、この行動選択の効率性についても議論したい。



勝原さん


タイトル:繁殖干渉下の在来近縁植物2品種の共存機構:ツユクサ・ケツユクサ系を用いて


 生物の多種共存機構の解明は生態学における中心的議題の一つであり、古典的には、 “種間でニッチを共有しないこと”が重要であると考えられてきた。顕花植物においては、2種が送粉ニッチ(いつ・どこで・だれに花粉が運ばれるか)を共有する場合、送粉者によって運ばれた異種花粉が柱頭に付着することが、花粉管の干渉や胚珠の天引きといった繁殖干渉を引き起こす。このような繁殖干渉は、形質置換によるニッチ分割や、競争排除を強く促進するため、送粉ニッチを共有する植物の共存は困難であると考えられてきた。

 発表者は、送粉ニッチを共有しているにも関わらず野外で同所的に共存している在来一年生草本ツユクサとケツユクサを用いて、「先行自家受粉(花が開く前に蕾内でおしべとめしべが接触する受粉)が繁殖干渉の悪影響を軽減する」可能性について研究を行ってきた。さらに、「先行自家受粉の進化が繁殖干渉下の共存を可能にする」という仮説について、個体ベースモデルを用いた研究も行っている。本セミナーでは、これらの一連の研究を紹介し、ニッチを共有する植物の新たな共存メカニズムについて議論したい。






2024/01/31

多年生植物の遺伝的多様性

場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階講義室

日時:2024年2月20日(火曜日)15:00〜

演者:都築洋一(国立環境研究所 環境リスク・健康領域リスク管理戦略研究室 特別研究員
演題:孤立した多年生植物集団において遺伝的多様性が維持されるのはなぜか


生息地の分断化は野生生物の存続を脅かす危機要因の一つである。北海道十勝地方では、明治時代から続く農地開発によって森林が大きく分断されてきた。私は、それらの孤立林に生息する多年生の草本植物オオバナノエンレイソウTrillium camschatcenseを対象に、生息地の分断化が植物集団の遺伝的多様性に及ぼす影響を調べてきた。オオバナノエンレイソウは、発芽したばかりの実生、栄養成長途中の幼植物、繁殖をおこなう開花段階など、様々な生活史段階の個体で集団が構成されている。生活史段階ごとに遺伝的多様性を評価するとともに、個体群行列モデルを使った数理解析をおこなうことで、どの生活史段階が集団全体の遺伝的多様性を維持するうえで重要なのかを調べた。その結果、開花に至るまでに個体が長い年月をかけてゆっくりと成長するという生活史戦略を持つことで、幼植物段階で様々な年齢の個体が累積して、遺伝的多様性が維持されていることがわかった。また多年生植物一般を対象にした数理モデリングによって、緩徐な成長は多年生植物で広く遺伝的多様性の維持に寄与することもわかってきた。発表では現在取り組み始めている研究内容もご紹介しつつ、生活史戦略に着目した遺伝的多様性評価の意義について議論したい。





2024/01/09

タンポポの性的対立

場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階講義室

日時:2024年1月10日(水)15:00〜
演者:京極 大助 博士(兵庫県立人と自然の博物館)
演題:植物に受精前の性的対立はあるか?

受粉した花は、受粉しなかった花よりも、早く枯れたり閉じたりする。この現象は役割を終えた器官を放棄する適応だと解釈されることが多い。しかし、早期の閉花が種子親に花粉制限をもたらすと考えられるいっぽう、花粉親から見れば閉花は花粉管競争のリスクを軽減するなどの点で適応的だと考えられる。すなわち、花の枯死や閉花のタイミングをめぐって種子親と花粉親の間に利害対立(性的対立)があるかもしれない。2倍体の有性生殖種であるカンサイタンポポを用いて、この仮説の検証を私は共同研究者とともに進めてきた。カンサイタンポポの花(花序)は受粉によって閉花が誘導される。集団間での交配実験により、閉花の速度に花粉親の形質が影響していることが明らかとなった。また一連の実験により、早期の閉花が種子親と花粉親の適応度に与える影響についても明らかとなりつつある。セミナーでは仮説の理論的背景を説明するとともに、現在までに得られている結果を紹介する。また今後の研究の展望についても議論する。



2023/12/04

ツル植物のマクロ生態学

場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階講義室
日時:2023年12月20日(水)15:00〜
演者:日下部玄(東京大学 農学部 博士後期課程)
演題:日本列島における木本性つる植物の分布パタンとその登り方間差

木本性つる植物(以下:つる植物)は自重の支持を他に依存する樹木と定義され,細い幹と幹の太さに対し不釣り合いに大きな葉量に特徴づけられます。森林の群集以上のスケールを対象としたつる植物の研究は熱帯を中心にこの30年ほどで飛躍的に増加し,つる植物が宿主となる立木によじ登り樹冠を覆うことで宿主の成長や生存に負に作用し,森林の炭素蓄積量を低下させるといった機能が示されています。また,林業分野では材を変形,劣化させる要素として排除の対象として扱われています。一方で,種や個体レベルでは,つる植物が登り先を探したり,多様な特殊化した仕組みを用いてよじ登ったりする様子のユニークさは古くから学者達の興味を引いてきました。しかし,このつる植物内の多様さはつる植物の分布や森林に与える影響に関する研究では見逃されがちです。
演者は温帯を中心に広い環境条件の勾配を示す日本列島で,つる植物の登り方の違いに着目して,その分布パタンと,主に木部構造の視点から,そのメカニズムを調べてきました。セミナーではこれまでの研究を紹介し,つる植物群集の生態的機能について議論したいと思います。









2023/11/20

川魚の空間的選別


場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階講義室
日時:2023年12月5日(火)15時
演者:山田 寛之(愛媛大学 理工学研究科 学振PD)
演題:河川性魚類に作用する流下による空間的選別
 
河川生物の下流方向への移動分散を流下という。流下はしばしば表現型依存的に発生する。例えばグッピーの仲間やサンショウウオの幼生では、遊泳力が弱い小型個体ほど流下しやすいことが知られている。表現型依存的な流下は、河川上流域から特定の表現型を選択的に除去する進化圧となる。近年、表現型依存的な移動・分散に基づく進化メカニズムは「空間的選別」と呼ばれ、適応度に基づいて作用する自然淘汰とは区別されている。
 
流下による空間的選別は、流下した個体が再び川を上り、元の場所に戻ってくる場合に打ち消されてしまうだろう。しかし、堰堤や滝などの移動障壁の上流に隔離された集団(隔離集団)では、障壁の段差のために、流下した個体が再び戻ってくることはない。そのため流下による空間的選別の進化圧は、このような隔離集団に長期的に累積し、独自の流下回避形質を創出する可能性がある。
 
演者はこれまで、サケ科魚類(紀伊半島南部のアマゴと北海道南部のイワナ)の稚魚を対象に、この進化仮説の検証に取り組んできた。本発表ではそれらの研究成果を紹介すると共に、四国の棚田の細流に生息するタカハヤを対象とした、現在進行中の研究進捗についてもお話ししたいと考えている。

連絡先:富田幹次ktomita38(a)gmail.com




2023/07/10

人間の心理や社会と環境への適応

日時:2023年7月31日(月)15:00〜18:00

場所:高知大学 物部キャンパス 附属暖地フィールドサイエンス教育研究センター 1階 講義室

講師:草野 広大(University of Nevada, Reno)
演題:生態学的アプローチで人間社会と人間心理の多様性を理解する

日本では、週に約1回の頻度で最大震度4以上の地震が発生しています。また、モンゴルの気候は夏には最高気温が40℃まで上昇し、冬には最低気温が-30℃まで下がることがあります。これらの異なる環境条件下では、社会の形成や人間心理も異なるのではないでしょうか。
 本セミナーでは、最新の研究結果を交えながら、人間社会と人間心理の多様性の根源を探求します。近年の人文科学(心理学や人類学など)では、生態学や進化生物学の理論を取り入れる試みが盛んに行われています。この学際的なアプローチの基本的な考え方は、「人間の心理や社会は環境への適応の過程で形成される」というものです。環境とは、自然災害などの「自然に発生する」要因だけでなく、格差や貧困などの「人工的に作り出される」要因も含まれます。これに基づいて、セミナーでは民主主義(政府が個人の自由を保証する政治体制)、集団主義(個人の自由よりも集団を重視する文化的価値観)、宗教心(超自然的な力や存在への信仰)がどのように環境に適応する過程で形成されるのかを解説します。さらに、地球温暖化や戦争、パンデミックなどの危機についても議論し、将来の変化を予測するために人文科学が果たす役割についても検討します。

2023/05/19

生態学と統計学

 日時:2023年6月5日(月)14:50〜16:20

場所:高知大学 物部キャンパス 暖地フィールドサイエンス教育研究センター 講義室
講師:大久保裕作(岡山大学工学部講師)
演題:生態学における統計的分析との関わり方を考える

生態学分野において、観察や実験で得られたデータを統計的に分析することは不可欠であると考えられてきた。しかしながら、近年の生態学で応用される統計的手法はますます専門化・複雑化を遂げており、その原理や全体像を把握することは徐々に難しくなっている。果たして生態学者はどのようにして統計的分析に向き合えば良いのだろうか?いっそデータ分析の専門家に全て任せた方が効率的なのだろうか?あるいは近年の統計分析はやり過ぎで、そもそも過度に複雑な手法を使う必要などないのだろうか?

本発表では、さまざまな統計手法の背後にある“価値論“に注目することでこうした問いを検討する。統計学を広義の数学として捉えると、特定の手法になにかしらの価値判断が結びつくことは奇妙に感じられるかもしれない。ところが、統計学者同士の議論を慎重に分析すると「どの手法で分析すべきか」という議論の背後に「なにをもって“良い“分析と見做すか」をめぐる価値判断の問題が見えてくる。こうした点を専門的な数学を使わずに紹介し、実際のデータ分析への示唆を議論する。

問い合わせ:富田幹次(高知大学)